軽いめまい

不倫をするわけでもなく、自立して自己を発見しようと試みるわけでもなく、いわば何一つ劇的なことなどおきなかった三十何年かの人生を、時には物も考えるし、あれこれ悩んだり感動したり発見したりしながら、なんとなく生きて来た女の人が、軽いめまいのようにして感じる、それほど特権的でもなければ、存在や魂の深部にとどくというほどでもないのだけれど、ふと、自己や記憶をなまなましい名付けようのない、けれども、かけがえのない何かとして感じる瞬間について、書いてみようと思ったのは、おそらく、私自身がそうした軽いめまいを、およそ変化というものに乏しい日常生活のなかで体験するからなのでしょう。――あとがきより