大正から昭和初め、働きつつ学ぶ青年・多喜二は、文学への熱情、人間を抑圧する社会への怒り、知り初めた恋の苦しみを、ノートに書きつけ雑誌に投稿した。虐げられる弱き者への優しい眼差しと、苦の根源への鋭い問いを秘めた、これら初期作品群こそは、29歳で権力に虐殺されたプロレタリア作家の多感な青春の碑である。86年ぶりに発掘された最初期の「老いた体操教師」、秀作「瀧子其他」を含む16篇を精選。
革命、恋。短くも激しく燃えた青春の碑
大正から昭和初め、働きつつ学ぶ青年・多喜二は、文学への熱情、人間を抑圧する社会への怒り、知り初めた恋の苦しみを、ノートに書きつけ雑誌に投稿した。虐げられる弱き者への優しい眼差しと、苦の根源への鋭い問いを秘めた、これら初期作品群こそは、29歳で権力に虐殺されたプロレタリア作家の多感な青春の碑である。86年ぶりに発掘された最初期の「老いた体操教師」、秀作「瀧子其他」を含む16篇を精選。
曾根博義
「瀧子もの」……など、昭和に入ってからの短篇に、多喜二のリアリズムが個人的にも社会的にも登りつめ、磨きをかけられた末に、「救い」や「理想」を求めて闘い、個人を超えるぎりぎりの地点にまで達した、その最高の成果が見られる。(略)また「人を殺す犬」の残酷さは個人の内面を無視した表現の残酷さではなくて事実の残酷さであるにもかかわらず、言葉によるリアリズムの極限の恐ろしいまでの力を感じさせて、2年後の「蟹工船」を想起させずにはおかない。――<「解説」より>
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