軍靴響く時代、詩の自由を求めた若き詩人たち
戦後詩を先導した「荒地」の詩人たち――鮎川信夫、中桐雅夫、田村隆一、三好豊一郎、北村太郎、さらには戦後を迎えることなく歿した牧野虚太郎、森川義信ら……。軍靴響く閉塞した時代のなかで、自由なる詩精神を堅持した、彼ら“若き荒地”の青春群像を、当時の詩誌「LUNA」「LE BAL」「詩集」等を綿密に辿ることで、鮮やかに再現。戦前・戦中の詩史に新たな光をあてた貴重で異色な試み。
田村隆一
(昭和16年)10月18日の夜、ぼくが新宿の『ナルシス』で、スコッチ・ウイスキーを飲んでいたことは絶対たしかだ。まだほんの宵の口で、客はだれもいなかった。所在なくひとりで飲んでいたとき、表を号外売りがけたたましい叫び声をあげながら通った。ぼくは小銭を出して号外を買った。「東条陸相に組閣の大命降下!」思わずぼくは、ガランとした酒場の中で叫んだ、むろん、声を出さずに心のなかで――「戦争だ!」――<「本文」より>
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