21歳の多喜子は誰にも祝福されない子を産み、全身全霊で慈しむ。罵声を浴びせる両親に背を向け、子を保育園に預けて働きながら1人で育てる決心をする。そしてある男への心身ともに燃え上がる片恋――。保育園の育児日誌を随所に挿入する日常に即したリアリズムと、山を疾走する太古の女を幻視する奔放な詩的イメージが谺し合う中に、野性的で自由な女性像が呈示される著者の初期野心作。
太陽に向かう植物のように子を育む女の命の輝き
21歳の多喜子は誰にも祝福されない子を産み、全身全霊で慈しむ。罵声を浴びせる両親に背を向け、子を保育園に預けて働きながら1人で育てる決心をする。そしてある男への心身ともに燃え上がる片恋――。保育園の育児日誌を随所に挿入する日常に即したリアリズムと、山を疾走する太古の女を幻視する奔放な詩的イメージが谺し合う中に、野性的で自由な女性像が呈示される著者の初期野心作。
星野智幸
私は、多喜子のような母親を持った晶は幸せである、と思う。なぜなら、今の若い世代が内側に抱えこんでいる空虚さを、多喜子自身がすでに25年以上も前に持っていて、それを乗り越えようと格闘したからである。(略)子どもは、上の世代を見て育つ。親を見て、教師を見て、上司を見て、生き方の選択肢を広げていく。現代に晶がもっとたくさんいたら、と私は夢想する。家族のあり方は何倍も豊かでありえたのではないだろうか。――<「解説」より>
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