幼くして生母と離別し、母への思慕と追憶は、作家・丹羽文雄の原点ともなった。処女作「秋」から出世作「鮎」、後年の「妻」に至る、丹羽文学の核となる作品群。時に肉親の熱いまなざしで、時に非情な冷徹さで眺める作家の<眼>は、人間の煩悩を鮮烈に浮かび上がらせる。執拗に描かれる生母への愛憎、老残の母への醜悪感……。思慕と愛憎と非情な<眼>による、「贅肉」「母の日」「うなずく」「悔いの色」ほか10篇。
〇中島国彦 もっと丹羽文雄の創作の根源、感性の原点を示す作品を、いつでも読めるようにしたい――そうした思いを、多くの丹羽文学愛好者が持ったのではなかろうか。丹羽文雄は移り行く時代の風俗を巧みに描きながら、一方で自己の周辺の家族にかかわる体験に生涯こだわった作家でもあった。とりわけ、生母こうが、文雄四歳の時に家を出てしまった出来事は、その後の丹羽文雄の心情を規定することとなった。<「解説」より>
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