「わい、知りまへんのや。乞食だっしゃろ」家出少年が、無料宿泊所で見た最底辺の庶民の救いの無い生。そこから脱出を企てた時、少年は親切を尽くしてくれた男を冷然と切り捨てる。「ペテロのイエスの否認を思いださせる短編の傑作」と埴谷雄高が評した自伝的小説「神の道化師」等6篇。共産主義からキリスト教へと遍歴を重ねた著者が、実存的リアリズムと突き抜けたユーモアで描く秀作を精選。
井口時男
このささやかなアンソロジーを、私は「椎名麟三ユーモア小説集」とでも呼びたく思う。(略)椎名麟三のユーモアはそれ自体独特な神学である。(略)この国の貧乏な庶民生活のなかの粗末でありふれた事物だけを使って書かれたユニークな「神学小説」。(略)共同体が壊れ、人間と人間、国家と国家のこわばった関係が自己絶対化に根ざす凶悪な暴力を生みだしている今日、(略)このアンソロジーは、そうした時代に向けて差し出す1冊でもある。――<「解説」より>
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