《私はいったい何を怖れているのだろうか……月の光を溶かして、うず潮は昏く流れている。》幼い子を抱え料理屋で働く戦争未亡人の高浜千代子は、ジャワから復員して妻をなくした男杉本晃吉を知って荒涼とした敗戦直後の東京で3人共に生きようとする。1947(昭和22)年、戦後初の新聞小説として執筆、戦争で傷ついた庶民を温かく描いた家庭小説の名篇。