結婚生活14年になる中年のサラリーマン中川十一は、“茶色の眼”をした気の強い妻との潤いない生活の中で、同じ会社の子持の女性タイピストに心魅かれていく。敗戦直後の庶民の混乱した生活、男と女の愛の姿を映して、多くの読者の深い共感を得た〈随筆的家庭小説〉。円熟した芙美子の書くことへの意気込みと楽しみが伝わり、比類ない資質と新しい作風を予感させた晩年の名篇。