人生の大半を獄中で暮らした男には、戸籍がなかった。出所して改めて日常社会と向かい合い、純粋な魂の持ち主であるこの人物はどう生きたか。彼に代ってその数奇な“身分帳”を精緻に構成して、鮮烈な文学作品に結実させた労作。また、男の死の周辺を描いた「行路病死人」も文庫オリジナルとして併録する。