第6回メフィスト賞受賞作。
「私は確信する、空虚を嘆くべきではないと。私は空虚の意味で無なのではなく、創造者的虚無だ。その無から私自身が創造者として一切を創り出すのだ」(シュティルナー著『唯一者とその所有』より)
全ては何の脈絡も無く唐突に始まった。過去の記憶を全て奪われ、見知らぬ部屋で覚醒した私と女。
舞台は絶海の狐島。3人の惨殺死体。生存者は私と女、そして彼女を狙う正体不明の殺人鬼だけ……の筈だったのに。この島では私達が想像もつかない「何か」が起こっていたのだ。
蘇る死者、嘲笑う生首、闊歩する異形の物ども。あらゆる因果関係から排除された世界──それを冷たく照覧する超越者の眼光。
全ては全能の殺人鬼=<創造主>の膿んだ脳細胞から産まれた、歪んだ天地創造の奇跡だった。
そして……「ここはどこなの」女が存在しない口唇で尋ねる。「分からない。でもここにはあいつの邪気がない。あいつの手の届かない世界らしい」存在しない口で私は答えた。「あいつはもう2度と現れないの」彼女の不安気な問いに、私が頷く。女は存在しない男の顔を怪訝そうに覗き込んだ。「結局、あなたは誰だったの」「君は一体、誰だったんだい」私は揶揄(からか)うように問い返した。そんな事はもうどうだっていいじゃないか。もう何も彼も終わったのだから。
……だが、まだ終わったのではなかった。真犯人はそれを知っている。本当の終焉はこれからなのだ。
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