艱難辛苦のチベット行
旅の日常がリアルに伝わる日記の全貌
慧海の旅行記は世に驚愕の渦を捲き起こしてきた。当時、厳重な鎖国政策をとる禁断の地への単独潜入。経典の原典を求めて、苛酷なヒマラヤ越えを敢行し、秘密のベールに包まれたチベットの実情を紹介した。砂嵐に耐え、飢えに苦しみ、強盗に遭い、大河で溺れる。本書は、近年発見されたチベット行の日記を全文掲載し、丁寧な注釈と解説を施す。また、姪の追想録も付す。
十月一日、朝六時発足して東南に進む。不食の故にほとんど足を進むること能はず。一里半ほど来りし時に、昨日長行の疲労と依雪眼病の痛苦と凍寒飢餓の困難と湊合して最早歩を進むること能はず。さりとて人家の宿る処に着かざれば、このまま草原中の露と消へん。強ひて足を進めんとすれば蹌踉飄漂として雪中に疆(はばま)る。進退全く極まりて草雪中に坐す。――<本書「河口慧海日記」より>
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