男と女「究極の愛のかたち」
物語では近松門左衛門の『曾根崎心中』、三島由紀夫の『憂国』、渡辺淳一の『失楽園』『愛の流刑地』、『ロミオとジュリエット』、『トリスタンとイゾルデ』……史実では乃木大将夫妻、天城山心中、皇太子ルドルフ、ダイアナ妃……
三島由紀夫の心中美学
三島は「心中論」を書いた12年後に市ケ谷で割腹自殺をすることになるのだが、本人もそのような未来が予見できるわけもなく、「若い人同士の心中はいい」とか、「太宰治などの中年者の心中の不潔さ」などと書いているのだ。皮肉なことに太宰が心中したのは38歳、三島が森田必勝と死んだのは45歳であった。(中略)さらに「心中論」として、当然ながら近松に言及されるのだが、心中に性的な意味を見つけ出す次の議論は興味深い。「大人の心中では、必ず心中の直前に性の営みが行はれるさうであるが、近松の心中物の道行の文章はつねにこれを暗示してゐる。文辞の上ではそれに類した文句はないけれど、あの永い道行の美文は、死の直前の性的陶酔そのままである。(中略)心中といふ言葉にはどうしても性的陶酔の極致といふ幻影がつきまとふので、男女の性行為は本質的に疑似心中的要素を持つてゐる。これは少くとも性的経験のある人間なら誰でも知つてゐる秘密である」。――<本書より>
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