芥川賞作家から官能小説作家へと進んだ大ベテランが描く、江戸の町の四季おりおり、大評判のあたし小説決定版! ーーこの頃めっきり、春めいてきて、砂ぼこりのまじったあったかい風が吹いたりして。桜の蕾も、一雨ごとにふくらんできてるみたい。なんとなく、悩ましくって。女の一人寝がもったいないという気になっちゃうんです。夜なんか、なかなか寝つかれずに、太腿に夜着をはさんで、寝がえりばかり、うってることがある。腰巻をひらいたあそこに、丸めた夜着を、こすりつけるように、したりして、あたしってすごく体がほてる性質なんです。夜這いにくるほど、勇気のある男ってこの長屋にいないのかしら……。
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