岡村は、由紀の体や顔を眺めながら、おこなうのが好きだ。由紀は、歩く時にも、ちょっとした仕種も、ゆっくりとしている。岡村は、由紀には官能の素質があると、前からにらんでいた。それはやわらかそうな体の線や、着やせする小造りの骨細な線、白いきめ細かな肌などから、そう思っていた。愉悦を覚えている由紀の顔の中で、いちばんエロチックなのは、開いた口だ。前歯が覗き、めくれた上唇のまだらな口紅の跡とか、前歯の裏側に当てられている舌の先とかの眺めが、岡村を興奮させる……。性の美食家の目にうつる女の微妙な成長を丹念につづる「美食」をはじめ、「笑いながら」など、傑作6篇を収録。
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