「その空の下で 尾崎喜八詩集」既刊・関連作品一覧
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詩人、随筆家、翻訳家、また、クラシック音楽への造詣も深い著者は、山や自然を描いた詩や散文の秀品を多く残した。
本書は、詩集である。
その空の下で (妻に代わりて)
安達太良山もここから先は足で登るか、
ガラガラ廻っている味気あじきないあのリフトで
吊り上げられて行くかするよりほかはない。
山麓をいろどる落葉松からまつの新緑、遠い郭公、
峰の高みに真白な残雪の帯、
そして頭の上は、見よ、この空だ。
おばさまが言ったという「智恵子のほんとの空」、
東京ならぬみちのくの空が、
「あどけない話」どころか真底女人の
思い入ったまじめさで、少し悲しく、
深く青々とひろがっている。
私はこの空を今は亡い人のその昔の郷愁と
同じ思いでしみじみと見上げる。
足もとには猩々袴か燕オモトか
つやつや光る強い緑の芽がぎっしり。
これもあのかたの故郷の山の草だと思えば、
踏むどころか、記念に一株掘るどころか、
気をつけて、丁寧に、
跨いで、 行く。
【目次より】
されど同じ安息日の夕暮れに
アイヒェンドルフ再読
よみがえる春の歌
音楽会で
シューマンと草取り
一つのイメージ
ほほえましいたより
復活祭
晩年のベルリオーズ
上高地にて
森林限界
詩人と笛 その一、その二
夏行
恢復期の朝
鎌倉初秋
明月谷
岩雲雀の歌
古い山の地図を前にして
雲表の十月
霧ガ峯の春
カエデの勉強
続けかしの歌
鈴
ヴィヴァルディ
『諸国の人々』
勉学篇
バッハの『復活祭オラトリオ』から
二つの現実
讃称
エリュアール
浄土平
その空の下で
春愁
命あって
黄道光
トンボの谷
詩「無常」の作者に
過去と現在
安らぎと広がりの中で
沈みゆく星に寄せて
後記