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語りかける身体

「植物状態患者」は自分自身や周囲の環境を認識できず、他者と関係することが不可能だと定義されている。しかし実際に彼らと接する看護師や医師の多くは、この定義では理解できない「患者の力」を目の当たりにする。自然科学は彼らを「意識障害」としか診断できない。そこで著者は現象学という哲学を使って、その〈何か〉を探究し始める。
植物状態患者のみならず、高齢者や認知症などのケア、日々のコミュニケーションにも通じる、「目で触れ、耳で見る」ような身体のあり方を描く一冊。

“長田弘という詩人にこんな言葉がある。「みえてはいるが誰れもみえていないものをみえるようにするのが、詩だ」。わたしはこれこそ現象学の定義だと考えてきたものだが、この定義は西村さんの現象学のなかでなによりも生かされているとおもう。……わたしが西村さんのお仕事に読み取ったもっともたいせつだとおもわれること、それはひとつの身体的な存在が別の身体的な存在のかたわらにあるときに、そこに生まれる身体のコモンセンス、いいかえると感覚相互の浸透しあいでありまた社会的な感覚でもあるようなコモンセンス、それを科学は引き裂いてきたのではないかという問いである。本書でしめされているのは、哲学と臨床とがひとりの人のなかで深く交差した、稀有な仕事だとおもう。”――鷲田清一(本書「解説」より)



「植物状態」は「意識障害」ではない――。人と人との関わりのうちにある〈何か〉を掬い出す、臨床の哲学。

[目次]
第一章 〈植物状態患者の世界〉への接近
 1 植物状態患者との出会い
 2 方法論的模索

第二章 看護経験の語り
 1 Tセンターでの経験
 2 受け持ち患者との関わりをふり返る
 3 経験のふり返りと気づき

第三章 〈身体〉を介して交流する看護ケア
 1 視線が絡む
 2 手の感触が残る
 3 タイミングが合う
 4 交流が成立する基盤

第四章 臨床のいとなみへのまなざし
 1 探究プロセスの振り返り
 2 看護研究における現象学的方法論の課題

解説 臨床のまなざし、現象学の思考――鷲田清一