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故郷七十年

創立60周年を迎えるにあたって神戸新聞社は、兵庫県出身で82歳の柳田國男に回顧談を求めた。柳田はこれを快諾、25回にわたって聞き書きがおこなわれ、200回にわたる連載記事「故郷七十年」に結実した。一回の談話は3時間、長いときで5時間に及んだという。本書は近代日本の知識人の自己形成の物語、明治文学史の重要な一部、民俗学の誕生を語るもの。数ある自伝、回顧録のなかの白眉を文庫本でお届けする。


昭和32年(1957)、神戸新聞社は翌年の創立60周年を迎えるにあたって、兵庫県出身で82歳の柳田國男に回顧談を求めました。柳田はこれを快諾、25回にわたって聞き書きがおこなわれ、200回にわたる連載記事に結実しました。一回の談話は3時間、長いときで5時間に及んだといいます。
起筆の言葉にいわく、
「神戸新聞は今年満六十年を迎えるという話である。人間でいえば還暦というわけであろう。ところが初めて私が生れ故郷の播州を出て関東に移ったのは、それより十年以上も古い昔のことであった。それから私の心身がだんだん育って行くにつれ、私の眼が全国的に拡がり、世界中のことにも関心を引かれるようになったことに不思議はない。しかしそれでも幼い日の私と、その私をめぐる周囲の動きとは八十余歳の今もなおまざまざと記憶に留って消えることはない。いつかそのころに筆を起し私自身の足跡とその背景を記憶するならば、或いは同時代の人たちにも、またもっと若い世代の人たちにも、何か為になるのではないかというのが、かねてから私の宿志であった。
 幸いに時が熟したので、神戸新聞の要請をいれ、ここに『故郷七十年』を連載することにした。それは単なる郷愁や回顧の物語に終るものでないことをお約束しておきたい」
 その言葉どおり、本書は近代日本の知識人の自己形成の物語、明治文学史の重要な一部、民俗学の誕生を語るものとなりました。数ある自伝、回顧録のなかの白眉を文庫本でお届けします。