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在日

自分の内面世界に封じ込めてきた「在日」や「祖国」。今まで抑圧してきたものを一挙に払いのけ、悲壮な決意でわたしは「永野鉄男」を捨てて「姜尚中」を名乗ることにした。

わたしの原点になったのは、母(オモニ)だったのではないかとつくづく思うことが多くなった。あふれるような母性的心情と繊細さ。母はわたしの避難場所であったし、母もまたわたしを自分の繭の中で保護することを望んでいた。「在日」であり、同時に「文盲」であることは、終生、母に付きまとった「宿題」であったに違いない。「在日」であることが、わたしの思春期に暗い影を落とす宿命的な桎梏(しっこく)であったとすれば、母にとって「在日」を生きるとは、無念に失われた故郷の記憶を異国の地で新しく再生させることを意味していた。――<プロローグより抜粋>