生きる。愛する。 姜――森達也の指摘するとおり、イエドヴァブネの惨劇の起きたポーランドの小さな村は、戦争の世紀の深い闇を見据えるのに最もふさわしいロケーションかもしれない。この小さな村での出来事から、神でも悪魔でもない、その中間に宙吊り状態になった「人間」の誤謬や不安、恐怖や凶暴さ、そして優しさといったさまざまな情念が垣間見えてくるように思える。 森――姜尚中は険しい表情で、展示物をじっと凝視している。アウシュビッツは僕らにとっての触媒であり、同時にリトマス試験紙なのかもしれない。身体の奥底にしまいこんでいたはずのデモーニッシュな領域が、いつのまにか刺激され、苦い汁となって舌の裏に滲み出す。だからこそ人はここに来る。恐々と。でももしかしたら、意識のどこかでうきうきと。 <本文より抜粋>