亡き戦友への鎮魂の情と典型的夫婦像を描く。苛烈な戦争体験により青春を喪失した男の、漠然としたいらだち。一見専制君主的な夫婦関係を描きながら、男の哀しみ、ニヒリズムを鋭くつきつける長編傑作小説。
海軍予備学生に志願し従軍した牧野の青春は敗戦とともに打ち砕かれた。心は萎えていた──身内に暗い苛立ちを棲みつかせ、世間に背を向け頑なに生きる男。短気で身勝手で、壮烈な暴力をふるう夫に戸惑い反撥しながらも、つき従う妻。典型的な夫婦像を描く作品の底に、亡き戦友への鎮魂の情を潜め、根源的な哀しみを鋭く突きつける傑作。
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