女装、泥酔、放火――、模範少年はなぜ一見、脈絡のない事件を起こしたのか? 少年の心理を過去現在の交錯する戦後空間に追い、母と息子の残酷極まりない愛の悲劇に至る傑作「母子像」(世界短編小説コンクール第一席)、黒田騒動に材を採り破滅に傾斜する人間像を描破した「鈴木主水」(直木賞)等、凝りに凝った小説技巧、変幻自在なストーリーテリングで「小説の魔術師」と評される十蘭の先駆性を示す代表的7篇。
正体をくらますリュパン? 遁走するファントマ? “小説の魔術師”十蘭の傑作7篇
女装、泥酔、放火――、模範少年はなぜ一見、脈絡のない事件を起こしたのか? 少年の心理を過去現在の交錯する戦後空間に追い、母と息子の残酷極まりない愛の悲劇に至る傑作「母子像」(世界短編小説コンクール第一席)、黒田騒動に材を採り破滅に傾斜する人間像を描破した「鈴木主水」(直木賞)等、凝りに凝った小説技巧、変幻自在なストーリーテリングで「小説の魔術師」と評される十蘭の先駆性を示す代表的7篇。
江口雄輔
ジャンルにこだわらない作品傾向とそれにふさわしい多彩な文体、十蘭は安住することなくつねに文体実験を試みた。安住できなかったといったほうが正しいかもしれない。どこかにあるはずの理想郷がどうしても捕捉できないもどかしさがあり、他方、目の前の現実には満たされないもの、欠落している部分があったからだ。何が欠けているのか、それは本人にもわからない。それだけいっそう現実世界から隔絶した十全たる世界で、しかもそれにふさわしい久生十蘭の刻印がしっかり押されている世界を求めた。――<「解説」より>
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