カール・クラウス 闇にひとつ炬火あり
稀代の作家・ジャーナリスト・編集者カール・クラウス(1874-1936年)。ただ一人で評論誌『炬火』を編集・執筆し、激動する世界の中で権力や政治の堕落・腐敗に〈ことば〉だけで立ち向かったクラウスは、ベンヤミンやウィトゲンシュタインが敬愛した人物にほかならない。著者が深い思い入れと情熱を注いだ本書は、生い立ちから雑誌での活動、代表作の紹介まで、巨人の全貌を描いた日本語による唯一の書物である。
本書は、稀代の作家・ジャーナリスト・編集者カール・クラウス(1874-1936年)の生涯を描いた日本語による唯一の書物である。
モラヴィア出身のユダヤ人として生まれたクラウスは、1899年にウィーンで評論誌『炬火(Die Fackel)』を創刊する。ヨーロッパがやがて世界大戦に向かう激動の時期を迎える中、クラウスは編集者としての役割を越え、1911年末以降は『炬火』をたった一人で編集・執筆する個人誌に変貌させていった。そうして権力や社会や文化の堕落・腐敗に鋭い批判を突きつけていった『炬火』は常に毀誉褒貶の対象であり続けることになる。
また、クラウスは1910年から定期的に朗読会を開催し、自身のものを含めたさまざまな作品を聴衆の前で読む企てを始める。この会は没年まで実に700回に及んで行われ、とりわけ圧倒的な支持を寄せた若者たちに深い影響を与えた。そして、いよいよ大戦が間近に迫る状況の中、クラウスは反戦劇『人類最期の日々』の執筆に邁進し始める。全5幕219場、登場人物は600人以上に及び、上演すれば10日以上を要すると著者自身が言うこの気宇壮大な戯曲は、皇帝、将軍、文学者、新聞記者、政治家、官僚、娼婦、闇商人、町の遊び人に至るまで、ありとあらゆる種類の人間の言葉を新聞・雑誌などから縦横無尽に引用して織りなされる作品である。
のちに同じ引用の織物による書物を志したヴァルター・ベンヤミンは、クラウスを深く敬愛していたことが知られる。ベンヤミンのみならず、エリアス・カネッティも、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインも、クラウスの崇拝者だった。世紀末から世界大戦に向かう時期のヨーロッパを語る上で、クラウスは決して無視できない存在であることは間違いない。著者が深い思い入れと情熱を注いだ本書は、この知られざる巨人の生涯を鮮やかに浮かび上がらせる。
激動する世界の中で堕落と不安が蔓延するとき、メディアは、そして〈ことば〉はいかなる力をもちうるのか。この根源的な問いに、まさに身をもって答えようとした巨人に触れるべき時が、今、訪れている。
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