腹の蟲
「家族なんて、よっぽど注意をしておかないと、すぐに壊れてしまうんだぞ」。かつて「息子」だった男は、やがて「父」となり、いま人生の後半に差し掛かっている。人間の成長と連環、生きていくということの根源を、丹誠を尽くした文体で描きだす、純文学。書き下ろし作品。
「家族なんて、よっぽど注意をしておかないと、すぐに壊れてしまうんだぞ」
かつて「息子」だった男は、やがて「父」となり、いま人生の後半に差し掛かっている。人間の成長と連環、生きていくということの根源を、丹誠を尽くした文体で描きだす、純文学。書き下ろし作品。
「親の一番の務めは、子の自立なんだからな。自由に、好き勝手に、生きてもらうのは望むところだが、親をあてにしている間はよくないな」「大学には行かなくてもいいのか」息子は不安な表情を向ける。「頼んだこともない。頼まれるのも嫌だな。おまえがそうしたければ、そうすればいいだけの話。それにおおよそのことは、懸命にやらないと、手に入らない。時間もかかる。きみはそこを端折ってやろうとしているんじゃないか」健一は能書きを垂れる快感を覚えながら応じた。生きあぐねている相手に言っても、伝わるものでもないが、言わずにいられない感情もあった。「どう生きればいいかは、こちらにもわからない。おまえの問題だし、親に言われても、迷惑なこともあるだろ? 」「なんだか危ないよな。ばらばらになりそうだ」――<本文より>
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