夢と現実、実在と不在、「死」を見た作家の、名作短篇集。
『死の棘』の最後の章ののち発表された8つの短篇。島尾敏雄が、執拗に描き続けてきた“夢”。何故、彼は、これほどまで“夢”にこだわったのか……。夢の中に現実の関係を投影し、人の心の微妙な揺らめきにしなやかな文学的感受性を示した、野間文芸賞受賞作家の名作短篇集。
富岡幸一郎
本書に収められている「夢屑」「過程」「痣」は夢を題材にして書かれた作品である。しかし、「幼女」「マホを辿って」「水郷へ」「亡命人」も作家の家族や過去の体験に基づいて書かれてはいるが、その現実のうちには夢の世界といってもいい気配が色濃く漂っている。そもそも夢と現を画然と分けることができるのだろうか。――<「解説」より>
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