はぐれ人の彷徨を切なく描く著者初の短篇連作集。 親しかったヤクザのひとりがつまらない喧嘩で命を落とし、時代おくれのトップ屋がひとり、何日も音信不通だった。ヤバい事件に挑んでみるさ。そんなふうにいっていた男だ。ふたりとも、飲むと陽気な仲間だった。飲んでいないときの暮らしは知らない。私も知られたいとは思わなかった。ここ数週間の私はといえば、ろくな仕事もないままに、事務所ちかくの飲み屋で毎晩同じように酒を飲み、同じようにけだるい朝を迎えていた。そんな昼下がり、女がひとり、有楽町のガード下にある事務所を訪ねてきた。依頼人が女の場合、とりあえず歳格好に興味がいく。仕事をやる気がない昼下がりとなればなおさらだ。<本文抜粋>
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