大戦前の激動のパリに立ち 日本精神の行方を憂う
昭和11年、ベルリン・オリンピック観戦のため、欧州へと旅立った横光利一。船上で2・26事件の報に接し、パリでは人民戦線派と右翼の激突――ゼネストに困惑する。スペインでのフランコ将軍の反乱、ドイツでのヒトラー支配の絶対化など、世界史の転換の最前線を直に知り、文明のあるべき姿を模索する赤裸で真摯な紀行文。戦時下に書かれた最後の大作『旅愁』を生み出す契機ともなった、時代精神の貴重なる軌跡。
大久保喬樹
これらの報告、感想は単なる時局的な発言といったものではない。時局から出発しながら、おのずとその背景に広がる文明史的問題にまで発展していくところが横光の真骨頂であり、(中略)この現代史の転換期に、その転換の最前線に立ち会って、横光は、この転換の世界史的意味とは何なのか、日本はこの転換にどう対応すべきか、どういう方向にむかって進むべきなのかをひたすら考えつづけていたのである。――<「解説」より>
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