太宰治にその才能を愛され、市井に生きる人々の小さな人生を描き続けた、不遇な作家の稀有なる文業
明治の匂い香る新吉原、その地で過ごした幼少期を温かい筆致で振り返る「桜林」、妻に先立たれ、幼い娘を連れておでんの屋台を曳く男の日常を静かに辿った「日日の麺麭」等、清純な眼差しで、市井に生きる人々の小さな人生を愛情深く描いた小説9篇に、太宰、井伏についての随筆を併録。師・太宰治にその才能を愛され、不遇で短い生涯において、孤独と慰め、祈りに溢れる文学を遺した小山清の精選作品集。
小山清
私は太宰さんと会って、太宰さんの人柄が、またその生活が、作品と1枚のものであることを知った。太宰さんはまた非常に率直な人であった。いつ死んでも悔いのないように、好きな人にはこだわりなく好きだと云っておけと云っていたが、すべてにそんなところがあった。見ていてはらはらするほど率直なところがあった。――<「風貌」より>
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