日本近代文学史上屈指の名品
男と女が出会ったのは吉原。春に出会い晩秋に別れた。それから3年目の春、2人は再会する。そしてその年の冬、男は求婚し結婚した。……出会ってから6年目、1月に雪、2月の或る朝、女は息を引き取った。血を吐き死んだ。――著者のストイックな実体験を、切ない純粋な恋愛小説に昇華させ、<稀有の恋愛小説>と川端康成に激賞された不朽の名作。日本近代文学史上屈指の作品。
古井由吉
自分の屈折にかまけて人のことがまるで見えないという難が往々にして、私小説にたいする人の拒絶反応の元になるが、この小説の主人公は、自分が気がついていないということに、やがてまともに気がつく。自己省察は馴れ合いに堕しやすく、気づいたところからさらに屈折の中へ解けて、私小説においてもっとも始末のつかぬところであるのにひきかえ、この主人公の自己省察は際限のなさへ崩れずに立つ。人のことが見えない性格のようで、節々で見えている。――<「解説」より>
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