少年の持つ純粋さから、カトリックに入信した漆山。高校時代、級友を傷つけ、その告解の機会を逃したことから、神に背き、淪落の道へと迷い込む。大学時代、寄宿先の母娘と通じ、後に2人を死へ追いやったことで、後半生、精神の病に囚われるが、影のようにまといつく娘の父親の存在が、漆山に終末の日を迫る。人間の深奥にある欲望と、罪の意識の相剋の劇を描破した、異色のカトリック文学。
森内俊雄
のっけから難問を突きつけてきた。彼は私に尋ねた。自分はいったい、何のために生きているのだろうか。人が生きる、その本当の目的は、何であるのか、それが知りたい。彼は真面目で真剣だった。私は自分の作品『骨の火』の主人公、漆山陽三がうつし身として蘇り、出現してきたような気がした。漆山より遥に純粋一途な人間が、私を詰問しにやってきた、と思った。――<「著者から読者へ」より>
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