小さな店で卵を売る「私」の父は、1個1個の白い宝物を籾殻を敷いたりんご箱の底に、丁寧に丁寧にと置いてゆく。まだ人々がつましい暮らしをしていた昭和20年代の町で、食料品屋をし会社にも勤めていた父、店を切り盛りする母、平和な生活の中にも近所の娘さんが自殺し、元特攻隊員は失踪し、「私」にも弟が生まれ、父の飼う鳩は逃亡する。澄んだ幼い眼が大人達の世界を描く。坪田譲治文学賞。