己を没却し、対象の小説家の心に成り切った著者は岡本かの子を描けば妄想は何時しか悩ましい雰囲気を醸し、嘉村礒多を描けば愛の懊悩、業苦と共にのたうち廻る。宇野浩二、志賀直哉、原民喜ら12の鮮烈な肖像から、批判されつつも抗し難い私小説の魅力の秘密を解明し、近代日本の私小説が持つ倫理性と宗教性に説き及ぶ。山本健吉の文学的生涯の出発を告げた論稿。