梶井基次郎らと刊行した雑誌、「青空」、そして保田與重郎、亀井勝一郎らと創刊した「日本浪曼派」はとくに戦前の風潮とあいまって一世を風靡した感がある。本書は文学的僚友のあいだで、地味ではあるが兄貴分の場所にいた中谷孝雄が、いまだ文学的雰囲気の濃密な時代と友人たち、彼らの死を親情あふるる抑制をもって描く。収録作品中、「桂子」は主人公の孫の早逝を悲しんで哀切きわまりない。