江戸時代の天文暦学・医学・和算学を通観し、わが国の科学思想の特質が空間的法則よりも時間的変化を重視するものであることを著者は具体的に説く。すなわち幕府天文方・渋川春海は西洋流の永久的天体法則は幻想であり、万物は流転すると観じたし、『解体新書』以前の医者は解剖による局所の分析を排して動態的・全体的な治療を旨とした。功利主義に傾きがちな日本人の科学観に歴史的反省を促す好著。