本講義が「渋沢論語」として多年にわたって親しまれてきた理由の1つは、著者が「論語」各章に託して語るその体験談と人物論にあるだろう。そこには著者が明治政財界の中枢にいて身近に接した大久保利通、三条実美、伊藤博文、徳川慶喜らの生々しい人間性が活写されており、維新動乱期の波瀾の体験談と相まって貴重な歴史証言をなしている。また信長、秀吉、家康らをめぐる人物談義は、この講義に一段と生彩を与えて飽きさせない。