中国東北部、沿海州、朝鮮半島北部を版図に、2世紀以上、東アジアに君臨しながら、長く世界史の謎とされてきた「海東の盛国」。平安京の毛皮ブーム、菅原道真らによる宮廷外交など、多彩なエピソードをまじえつつ、渤海国の実像に迫る。
なぜ忘れられた国なのか――その国が、8世紀から10世紀初頭まで、東アジアの一角に厳然として存在し、日本や新羅と同じように、あるいはそれ以上に、唐の文化を吸収して文化国家として繁栄していたことは事実なのである。ましてや、その国が日本に200年間にわたって頻繁に使節を派遣してきたこと、それによって日本は、その古代文化の形成に、有形無形の利益や影響を受けたことが事実である以上、日本史の上で、この国の存在とその使節の来航を忘れることはできないのである。明治以後の日本の歴史教育は、日本文化の淵源としては、中国にのみ視界を限定して、植民地として支配した朝鮮半島の存在は、故意にその視界から外してきたと言われる。そして、渤海国の存在もそのあおりを食う形で、さらにその視界の外に追いやられたのかも知れない。しかし、今私たちは、東アジアの歴史を見る視界を東へ、北へと広げ、朝鮮半島はもちろんのこと、さらにそのかなたに存在していた渤海国と、そこから日本海の波濤をこえて来航してきた渤海使たちに歴史のスポットライトをあててみる必要がありそうである。――本書より
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