密教思想が説く「悟りの世界」「聖なる空間」の絢爛華麗なイメージ。マンダラに秘められたほとけの智慧に近づくことは、いかにして可能か。
空海の意図と演出――当時、密教を受け入れた一般の姿勢は、その「加持祈祷」にもっぱら期待するものであった。難解な教養を理解しようとするのは限られた知識階級のみで、朝廷も民衆も、空海に望んだのは祈祷による現世利益的効験であったろうことは、密教の性格からいって当然だった。即身成仏論の魅力も、そうした実地の効験と結びつかなければ大衆の心を惹きつけることは困難だったと考えられる。空海はこのことをよく知っていた。そのために、修法の場をいかに構成し、演出するかを、綿密に計画し、それを実現した。「秘密荘厳心」を具体的な実在として示すための密教儀式こそ、空海が肝胆を砕いて創り上げた造型の、劇的な綜合芸術なのである。――本書より
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