逃げる元ナチス親衛隊員と追うモサドとの必死の逃亡劇。最高の地位に立った大統領や「帝王」たちの暗い過去。また、庶民の中の無数の元ナチたちの重く苦い“それぞれの戦後”。そして今、東西統一へむけて活発化するネオナチ……。自己の「罪と罰」を問い続けるドイツの姿に、日本人のいまだ終わらぬ「戦後」を反照する。
墓場に「過去」を埋めたカラヤン――1982年5月、彼の33年入党について記述した『ナチス国家の音楽』の著者、F・K・プリーベルクに対して、弁護士を介して、偏見であると抗議し、根拠ある資料の提示を申し入れている。ナチス追及ということがはらんでいる歴史と現代への重い問いかけは、彼にはなんの意味ももっていなかったのであろうか。死のすこし前、彼はテレビで、オーストリア大統領ワルトハイムの過去および過去の清算について討論を見ていたが、それに対する彼のコメントは、「非生産的だ」という実に簡単なものであったという。彼の過去の真実はどうだったのか、尋ねようとしても、もはや彼はいない。カラヤンは、「過去」をみずからとともに、墓場に埋葬してしまったのだ。――本書より
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