大正3年、青森県尻尾崎で遭難した船から、ただ一人生き残った赤子があった。その子は沖子と名付けられ、観音堂守りのもとで育てられたが、長じて材木問屋の女中として働くことになる。沖子の美貌と陰日向ない働きぶりは誰からも好かれ、17歳の年に番頭の伊助と結婚するが、運命の悪戯は沖子に無情だった。新婚生活もわずか4ヵ月にして、終止符をうたれた。夫急死の悲しみの中に、翌年生まれた伊太郎を抱えた沖子は、各地を転々する。その伊太郎も、第二次大戦の末期に溺死し、やがて敗戦。沖子は、浅虫温泉の芸妓となって……。不幸な出生、そして残酷な戦争、愛別離苦など、暗い宿命に耐えて生き抜く、沖子の哀しい半生を描いた傑作、哀切のロマン。吉川英治賞受賞作品。
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