ゲーテは、つねにみずみずしい新鮮な心で、現実をありのままに受けとめ、しかも現実におぼれることなく、理想をもってそれに対処した人であった。われわれは、ゲーテが生きていたよりはるかに困難な時代のなかにあって、つねにいきいきと生きるために、この師のことばに心をひそめるべきであろう。本書は、著者とゲーテとの心の対話を通じて、示唆にみちた豊かなことばの泉から、われわれ現代人への知恵をくみとる。
愛を感じないものは、おもねることを学ばねばならない。そうでなければ世を渡ることができない。――「箴言と省察」痛いことばである。凸面鏡を突きつけられたようなもので、そこに写ったのは、うぬぼれ鏡に写ったのとは反対に、これが自分かと驚くほどの変妙な姿だが、それでもまさしく自分以外の何ものでもない。ゲーテの言っていることはおれには無関係だと断言できる人は、それほど多くはないだろう。それで、もしおもねりへつらう人間であることがいやならば、当然、われわれは人に愛をもたなければならないことになる。それは、そんなに容易にできることではないが、おもねる人間になることのいやらしさに比べれば、努力してでもそうならなければならない。
――本書より
書評より――西尾幹二(本書より)
著書はゲーテの前に、こころを空しくし、主観をできるだけ抑えて、「人間ゲーテの知恵のエキスのようなもの」を伝えたいと言っているが、数10年にわたってゲーテと交渉しつづけてきた「著者の知恵のエキス」が、箴言の選び方にも、その説明にも、そしてときどき素顔をみせる著者自身の人間への深い洞察のうちに否応なくあらわれている。それにとにかく読み易い。平明で、解り易い。それでいて、ひとつひとつの言葉に手ごたえがあって、思い出しては幾度でも取り出して、自分の生活の場に役立ててみたいような本である。――週刊読売書人所載
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