鞆ノ津茶会記
秀吉の暴威と隠者の酒宴。『黒い雨』に通底する最晩年の傑作――茶会の作法や規則なども全く知らないが、鞆ノ津の城内や安国寺の茶席で茶の湯の会が催される話を仮想した……秀吉の九州攻略から朝鮮出兵へと至る時期。作家の郷里・備後を舞台に、小早川隆景に恩顧を受けた、武将や僧侶が集まる宴で噂話に花が咲き、戦国末期の生々しい世相や日常が、色鮮やかに甦る。著者の想像力に圧倒される、最晩年の名作。
〇『黒い雨』が、原爆投下になぎ倒された戦争という「大きな物語」の中にありつつ、片隅の「小さな世界」で変わらない生命の希望を浮かびあがらせるように、この作品は、天下統一、朝鮮侵略をへて関ヶ原にいたる戦国時代の天上暴風の「大きな物語」のもと、同様にぼんやりと「位低く」光ることをやめない、何やら変わらぬ「正しさ」のありか、その平地の地温を伝える。<加藤典洋「解説」より>
※本書は、1989年1月福武文庫版『鞆ノ津茶会記』、1999年1月刊『井伏鱒二全集27』(筑摩書房)を底本としました。
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