二つの「競争」―競争観をめぐる現代経済思想
本書は、はっきりと自覚しないままに用いている競争の意味を、経済学の観点から紐解いていこうとする試みです。競争論の変遷をたどりつつ、哲学的思想を参照しながら、同じ競争と訳される「コンペティション」と「エミュレーション」という二つの競争観をめぐる議論をたどります。競争という概念そのものをあらためて考えなおしてみることに、現代の競争をめぐる諸問題を解決するヒントが隠されているかもしれません。
スポーツやゲーム、受験勉強に企業活動と、私たちの日常には、競争があふれています。では、いったい競争とは何を意味するのでしょうか?
スポーツやゲームでは、ルールが定められ、その競争相手もはっきりしています。一方、受験において、競争相手は無数にいますし、まして企業においての市場競争では、さまざまな相手とのいつまでつづくかわからない競争が繰り広げられます。
本書は、はっきりと自覚しないままに用いている競争の意味を、私たちが競争をもっとも身近なところで感じる経済学の観点から、その体系的な言説を紐解いていこうとする試みです。
経済学での競争観を一言で定義すれば、競争とは、限りある資源をもっとも有効に活用する方法を見つけ出すための手段であり、生産物を適正な価格で社会に分配していくための手段ということになります。すなわち、市場競争は勝者を決めるためのものではないというわけです。
しかし、これは一般市民の直感的な競争観とはかなり違うものと言えます。通常、市民生活において人びとが競争に向ける視線は、批判的で懐疑的なものです。とはいえ、競争がなければ社会や個人の発展・成長がないとする向きも一方であり、立場や状況によって、競争を肯定的にも否定的にも捉えることがあり得るのです。
経済学における競争論の変遷をたどりつつ、ときにアリストテレス、プラトン、フーコーら哲学者の思想を参照しながら、同じ競争と訳される「コンペティション」と「エミュレーション」という二つの競争観をめぐる議論はつきません。
二者択一的な解をもとめるのではなく、競争という概念そのものをあらためて考えなおしてみることに、現代の競争をめぐる諸問題を解決するヒントが隠されているかもしれません。
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