極楽谷に死す
1970年代、あの時代の熱はどこにいってしまったのか。南米バルパライソ、極楽谷と称される海辺の町から“わたし”のもとに一通の手紙が届く。学園紛争に引き込んでしまった友人が死んだという。さいはての地で娼婦の稼ぎで生きてきた男の軌跡を辿(たど)る“旅”にわたしは出た――。あの時代があざやかによみがえる短編集。(講談社文庫)
熱くてとっぽくてマジだったあの時代がここに生きている。――加賀まりこ
1970年代の余韻。それぞれの軌跡を辿る旅――
1970年代、あの時代の熱はどこにいってしまったのか。南米バルパライソ、極楽谷と称される海辺の町から“わたし”のもとに一通の手紙が届く。学園紛争に引き込んでしまった友人が死んだという。さいはての地で娼婦の稼ぎで生きてきた男の軌跡を辿(たど)る“旅”にわたしは出た――。あの時代があざやかによみがえる短編集。
「君がいうように、俺は一介の物書きにすぎない。そんな奴に、センデロ・ルミノソを紹介しても意味ないだろう」
「意味はある」
強い口調だった。
「アメリカなどはセンデロ・ルミノソを凶悪なテロ組織だと喧伝(けんでん)しているけど、そんなんじゃない。いまや彼らは圧政に苦しむ南アメリカ各国の人々の輝ける指針よ。あなたを彼に紹介したのは、そのことを日本の大衆に知らせて欲しいからだわ」
わたしは硬質なまなざしでそう言い切ったヒロコを見つめて思った。
――けっきょくこいつは、あの頃と変わっていない。騒然たるアジ演説と怒号が交錯する1970年代初頭の大学キャンパスが、瞬間的に脳裏に浮かんで消えた。――<「風の王国」より>
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