凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力
古代ローマに倣うように、ルネサンス宮廷に甦る仮設建築の凱旋門。それは入市式における君主の行列を迎える舞台、またメッセージを伝える大道具として機能し、さらに「生きた人間による絵画」の展示を加えて、大がかりな演劇的空間を作り出した。束の間の宮廷祝祭を彩った凱旋門と活人画は、その後、国民国家の記憶装置あるいは上流社会の娯楽としての道を歩みやがて明治日本にも伝来し独自の変容を遂げてゆく。
古代ローマ時代に戦勝を記念して数多く作られた凱旋門。ローマの衰退とともに姿を消した凱旋門はルネサンス期に甦り、君主入市式に際して仮設建築の形で作られた。
一方、中世の教会で行われた典礼劇に端を発する活人画はその後アルプス以北の君主入市式を飾り、ルネサンス期には凱旋門を舞台に演じられるようになった。
両者は一体となってルネサンス宮廷の一大スペクタクルとして盛り上がりをみせたが、時代が下ると近代市民社会においてそれぞれ別の道をたどることになる。活人画は上流階級の夜会の余興として引き継がれ、凱旋門はやはり戦勝記念として国威の発揚を目的に作られ続けた。
さらにそうした文化は明治期のわが国にも流れ込み、国民統合の象徴として、祝祭の装置として、人集めの見世物として、高尚と下世話あい取り混ぜて浸透することになる。
両者ともエフェメラル(束の間)の存在として、一瞬間現れては消えてゆく。それ故に人々の期待と耳目を集める効果は大きく、その制作のためには美術・演劇はもとより音楽・文学といった芸術家たちの力が要請され彼らの腕の見せ所ともなったのである。
本書では、時を超え、洋の東西をまたいでさまざまなジャンルの芸術と触れあいながら、凱旋門と活人画がスペクタクルの力をいかに発揮してきたのかをたどる。
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