森女と一休

著:町田 宗鳳
定価:1,980円(本体1,800円)

 本書は、一休が最晩年の10年間を同棲した盲目の女琵琶師・森女との物語が中心です。足利義政の時代の虚構に満ちた仏教界を嫌悪し、常識に囚われない「禅の神髄」を示そうと肉と魚を喰らい、酒をあおり、遊郭に出入りした一休が、77歳で森女と出会うことで、なぜ変わったのか。80歳で大徳寺の住職となり、応仁の乱で焼けた伽藍を復興。森女との交情のうちに一休が見出した「人の道」「無我無欲の境地」を描きます。


 室町時代に登場した一休禅師(1394~1481)は「頓智の一休さん」として子供にも知られていますが、彼の実像は、そんな「愉快なお坊さん」からほど遠いものでした。
 北朝最後の天皇・後小松帝の落胤として生まれ、南朝出身の母と嵯峨野の民家で息を潜めて暮らします。6歳で身の安全のために出家させられますが、一度は自殺を試みます。近江の堅田にいた華叟(かそう)という厳しい禅師に出会い、年老いた師に献身的に仕えます。しかし、華叟が亡くなると一転「風狂の人」となり、堺に移って放蕩のかぎりを尽くします。
 当時の禅宗は室町幕府の庇護を受け、僧侶が漢詩の巧拙を競いあう貴族的なサロンと化していました。一休は虚構に満ちた仏教界に嫌悪を抱き、足利義政と日野富子の幕政を批判します。常識に囚われない自由滑脱の禅の神髄を身をもって示そうと、あえて肉と魚を喰らい、酒をあおり、男色を貪り、遊郭に出入りし、町の娘に子供を産ませたりしました。破戒のかぎりを尽くしましたが、晩年10年間は「森女」という40歳以上も若い盲目の女芸人と同棲しました。
 本書は、この森女と一休の物語が中心となります。
 森女と出会ってからの一休は、それまでの権威を敵視するような過激さが消え、優しさを見せます。80歳で大徳寺(臨済宗大本山)の住職となり、乱で焼けた伽藍を復興します。森女との交情のうちに人の道を見出し、真に無我無欲の境地を味わったのです。
 「仏界入りやすく、魔界入りがたし」という一休の言葉があります。型通りの修行をして得る悟りなど使い物にならず、己のうちに潜む魔性に触れた時こそ、本物の悟りが開けてくる。自らの体験からそう理解したのです。そして、応仁の乱後の日本人の精神を復興し、文化人としても能、茶の湯、俳句の原型を創造するという偉業をなしました。大陸由来ではない、自然と一体となった日本独自の文化は、一休から始まるのです。
 一休の魅力は人生と思想が一致し、その生涯を知るほどに味わいが深くなる点。天皇・庶民どちらとも親しく交流し、悪を憎まず偽善を憎み、戦乱の世にひと筋の光を示した一休の愛を描きます。

森女と一休

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