福猫小判夏まつり
小説を読む愉しみが、しみじみ味わえる名作卓越した筆致。言葉が紡ぎだす小説という世界に、するりと入りこんでしまいます。表題作は、木山捷平賞、野間文芸新人賞受賞の著者にとって、数少ない恋愛小説。
「小説を読む愉しみ」がじっくり、しみじみ味わえます。
ほろ苦さを秘めた上質な恋愛小説である表題作はじめ4作の中短編を収録した傑作集。
女の目が別れる前の妻の視線と似ている気がして、波多野はついて行ってみようかとかんがえた。それで1日がつぶれればいい。彼女はデパートを出ると西武池袋駅構内で宝くじを買い、受け取るときに両手を合わせて拝んだ。それから切符を買って各駅停車に乗り込み、空いている車内のシルバーシートに腰かけた。電車が動き出すと、縁の分厚い真っ黒なサングラスをかけて通りすぎる景色を見ていた。そのうち高価なハンドバッグから食品売場の通路に転がったコロッケを取り出し、座席に正座してゆっくりと咀嚼しはじめた。――(福猫小判夏まつり/本文より)
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