内容紹介
アイルランドから、アフリカ、インド、香港まで、世界にその足跡を残した大英帝国。大陸の片隅の島国は、いかにして大帝国へと発展し、女王ヴィクトリアが治める最盛期へと至ったのか。「アメリカ植民地の喪失」をステップとし、多くのモノと文化と娯楽を手に入れ、女性たちが世界を旅したこの国は、なぜ、他国に先んじて奴隷制度を廃止することができたのか。解体と再編の歴史から、EU離脱に揺れるこの国の現代をも読み解く。
講談社創業100周年記企画「興亡の世界史」の学術文庫版。大好評、第3期の4冊目。
アイルランド、インド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、中東、香港……世界中いたる所にその足跡を残した大英帝国。この拡大は、紅茶や石鹸などの生活革命を世界的に広める一方で、時には深刻な問題の種を植民地に蒔く結果ともなり、その影響は現代にまで及んでいます。大英帝国を知ることは「今を知る」ことに他なりません。スコットランド独立やEU離脱をめぐる議論の際にも垣間見える、現代イギリスの国民性は、輝かしいヴィクトリア女王の時代に象徴される「大英帝国」という経験と不可分の関係にあります。
これまでイギリス史のうえで「例外的なエピソード」として捉えられてきた「アメリカの独立」についても、著者は、むしろこの「アメリカ喪失」という経験こそが、のちに未曾有の発展を遂げる大英帝国の基礎になった、と述べています。保護貿易から自由貿易へ、奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へ――変容を遂げた帝国の内実を、交易されるモノ、ミュージック・ホールなど都市の娯楽、世界を旅する女性たちの人生など、さまざまな観点から描き出します。
また、21世紀に入り、「奴隷貿易の支配者」であった過去をどのように捉えるか、イギリス国民の間で議論が沸騰しています。欧米諸国に先んじて奴隷制度を廃止したこの国では、どのような人びとの努力で、奴隷廃止に至ったのでしょうか。ブリストルが誇る慈善家、エドワード・コルストンの銅像に書きつけられた、ある落書きの衝撃とは?
[原本:『興亡の世界史16 大英帝国という経験』講談社 2007年刊]
目次
- はじめに
- 第一章 アメリカ喪失
- ローマ帝国の衰亡とアメリカ喪失
- 「イギリス人」だったアメリカ人
- アメリカ喪失の教訓
- 第二章 連合王国と帝国再編
- 問い直される愛国心
- スコットランド帝国という幻想
- ジェラルド・オハラの青春
- 第三章 移民たちの帝国
- アメリカ喪失と移民活動の再開
- 「帝国の時代」のカナダ移民
- 第四章 奴隷を解放する帝国
- 奴隷貿易の記憶│共犯者としての帝国
- 奴隷貿易廃止運動の諸相
- よみがえる奴隷貿易の記憶
- 第五章 モノの帝国
- 紅茶の国民化――女性、家庭、そして帝国
- 巨大睡蓮と万博
- モノたちを見せる帝国
- 第六章 女王陛下の大英帝国
- 女王・帝国・君主制
- 女王陛下の要請によりて
- 第七章 帝国は楽し
- 大英博物館はミステリーの宝庫
- ゴードン将軍を救出せよ│観光と帝国
- ミュージック・ホールで歌えば帝国も楽し!
- 第八章 女たちの大英帝国
- 女たちの居場所
- 帝国に旅立つ女たち
- 第九章 準備された衰退
- 女たちの南アフリカ戦争
- 子どもたちの堕落をくい止めよ!
- 日英同盟の顛末
- 第一〇章 帝国の遺産
- イラクに迷う大英帝国
- 帝国の逆襲?
- おわりに なぜ今われわれは「帝国」を語りたがるのか
- 学術文庫版へのあとがき
製品情報
製品名 | 興亡の世界史 大英帝国という経験 |
---|---|
著者名 | 著:井野瀬 久美惠 |
発売日 | 2017年12月13日 |
価格 | 定価 : 本体1,310円(税別) |
ISBN | 978-4-06-292469-6 |
通巻番号 | 2469 |
判型 | A6 |
ページ数 | 432ページ |
シリーズ | 講談社学術文庫 |
初出 | 本書の原本は、2007年4月、「興亡の世界史」第16巻として小社より刊行されました。 |
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