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『天山の巫女ソニン2 海の孔雀』 菅野雪虫|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『天山の巫女ソニン2 海の孔雀』

菅野雪虫 (すがのゆきむし)

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’69年福島県生まれ。’05年に第46回講談社児童文学新人賞を受賞し、改題加筆した『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』でデビュー。著書は『羽州ものがたり』『天山の巫女ソニン 巨山外伝 予言の娘』など多数。

 先日、ノベルスとして出版するために、久しぶりに「天山の巫女ソニン」第二巻『海の孔雀』を読み返した。第一巻『黄金の燕』で十二歳の元巫女ソニンは、とある偶然から自国の王子イウォルの侍女になるが、政治的な陰謀に巻き込まれ、思わぬ活躍をすることになる。

 第二巻は、イウォルが隣国の王子クワンに誘われ、遊学に同行したソニンが再び陰謀に巻き込まれるという筋書きだ。キーマンは一巻でソニンを助けたクワン王子その人で、彼はある目的のためにソニンの巫女としての力を使おうと企んでいたのだ。

 クワンの故郷は美しい湾に面した村で、共同体による独自の商品開発によって栄えていたことから、またクワン自身の出自の問題から、その存在が脅かされる。何者かによって川の上流に毒が流され、強制退去を命じられた住民と軍隊の間で衝突が起こり、死傷者が出る。十数年がたち、王子として王宮に暮らしながらも、それはクワンにとって忘れることのできない傷となっている。

 あらかじめ予想していたことだが、私はその文章を一つ一つ直しながら、自分の故郷を思い起こさずにはいられなかった。私が生まれたのは母親の実家がある福島県いわき市の病院だが、生後数ヵ月は飯舘村で過ごし、その後は十八歳まで隣の鹿島町(現南相馬市鹿島区)で育った。この地名だけで大体の方はおわかりになると思うが、あの震災と人災で一躍有名になってしまった場所ばかりである。また福島の海辺の多くはなだらかな浜辺だが、クワンの故郷である湾のイメージは、父親の実家がある石巻市周辺の風景だ。

 今は、何もかもが変わってしまった。

 クワンは自分や多くの人々の運命を狂わせておきながら、素知らぬ顔をして王国の繁栄を享受する、ある人物に復讐を企てている。だが、復讐というものは相手が個人だからこそ可能なのかも知れない。個人ではないものに、人はどうやって復讐すればいいのだろう。どうすれば相手は反省し、謝罪し、もう二度と同じ過ちはしないと誓うのだろう。そしてあれだけ傷つけられた海や山や、そこに棲む生き物たちは、どれだけの時をかければ恢復するのだろう。『海の孔雀』を読み終えた私は、そんなことばかりずっと考えている。

 これを読んでくださったあなたの故郷が、いつまでも在りますように。



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