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『星々の夜明け フェンネル大陸 真勇伝』高里椎奈|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『星々の夜明け フェンネル大陸 真勇伝』

高里椎奈 (たかさとしいな)

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99年『銀の檻を溶かして』で第11回メフィスト賞を受賞しデビュー。‘10年9月、『フェンネル大陸』シリーズの短編集『天球儀白話』を刊行予定。

 本書は、存在自体が冒険でした。

 第一巻『孤狼と月』の執筆を始めた数年前、メフィスト座談会では「ファンタジーは受け入れられ難い」「ソーズ・アンド・ソーサリーはもう要らない」といった厳しい言葉が飛び交っていました。

 実際、ファンタジーは取っ付き難いかもしれません。

 現代でこんな一文を書くとします。『その喫茶店は、学校帰りの女子高生の笑い声で華やいでいた。硝子越しに赤々とした夕陽が差し込み、もう十九時になるというのに、西側の席は一面、ブラインドが下ろされている』

 では、同じシーンをファンタジーで書き直してみましょう。『その店は、年若い少女の笑い声で華やいでいた。晩鐘はまだ鳴らないが、太陽の角度からすると六刻半というところか。赤々と差し込む夕陽を避けて、日陰の席ばかりがやけに混んでいる』

 私達が持つ共通認識が通用しません。かと言って、詳細に説明を加えれば、文章は倍にも及ぶでしょう。更に、横文字の名前の覚え難さは最大の難関と言えます。

 それでも書いたのは、書かずにはいられなかったからです。

 空から降って来るように、目の前に広がる光景を、形に残したいと思いました。

 横文字対策にささやかな目印を忍ばせ、説明が増える分、文章自体をシンプルにするなど、思い付く限りの事をしました。

 けれど、無事にここまで辿り着けたのは間違いなく、世界の壁を物ともせず、一緒に旅して下さった皆様のお陰です。

 本当にありがとうございます。

 そして願わくばファンタジーをお好きな方も、普段馴染みのない方にも、人生の何処かでご同行頂けたら良いなと思います。

 ハイファンタジーが大好きです。それぞれの国の歴史、習慣、文化、気候、道具ひとつまでが楽しくて、嬉しいばかりで五年間、書かせて頂きました。

 主人公フェンベルクが始まりと終わりの地に辿り着く、シリーズ完結巻です。

 新たな古の世界を、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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