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『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』辻村深月|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

辻村深月 (つじむらみづき)

profile

’80年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。’04年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け幅広い読者の支持を得ている。

 本のタイトルをつける時、いつも迷います。

 自分が今まで読んだ本の中で、このタイトルが好き! と思ったものを思い浮かべると、大抵、タイトルだけでは意味がわからないものだったり、また、このタイトルを覚えることができるだろうか? と読む前に不安を感じるようなものであることも多かったです。では、何故それらを好きになってしまったのか。それは、読んでいる最中に「だから、このタイトルだったのか!」と意味がわかって、本を落としてしまうほどに衝撃を受ける、という瞬間が、どれもあったからです。

 いつか、自分もそんな小説を書きたい、と願ってきました。

 しかし、本の顔であるタイトルというのはなかなかに難しいもの。できれば、その言葉で内容がしっかりと伝わるものが望ましく、その作者のことを知らない人の目も書店で引きつけ、本を手に取らせる力を持たなければならないのだと、実際に小説を書くようになって、強く実感しました。

 タイトルをつける時に、これまで指標にしてきた一つの言葉があります。私は、デビュー作のタイトルを決める時、担当編集者と何十通とメールをやり取りしました。なかなか決まらず、「内容の全て見えるタイトル」というオーダーをなかなか捉えられずにいたら、彼からこう言われました。

「これにしてください、と言っているわけではないですけど、一例としては『神隠しの教室』くらいのわかりやすさを」

 稲妻に打たれたような衝撃を受けたことを覚えています。すごい! と思ったのです。それが学園モノであることも、人が消えていくミステリであることも一言でわかる。具体的な指標を与えられたことにより、かくして『冷たい校舎の時は止まる』は名づけられました。時間が止まった、冬の学校を舞台にしたミステリ小説。私の最初の顔であり、名刺代わりになった本です。

 あのやり取りから五年経ち、今回初めて、次の段階に移る勇気が出ました。タイトル単体では意味のわからないタイトル。でも、読み終えてもらった時に、読者にもきっと「このタイトルしかありえない」と感じてもらえるのではないかと思います。

 自信作です。『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』。タイトルの意味がわかるところまで、どうかよろしくお願いします。

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