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『深紅の断片 警防課救命チーム』麻見和史

『深紅の断片
 警防課救命チーム』

著者:麻見和史
定価:本体 1,500円(税別)

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麻見和史さん スペシャル・インタビュー

今まで警察を舞台にミステリーを書かれてきましたが、今回「救急隊」を主人公に選ばれた理由をお聞かせください。また、何かきっかけになるエピソードなどがありましたら、ぜひ教えてください。

自宅の近くに病院があるため、以前から救急車のサイレンをよく聞いていました。あるとき「そういえば、救急隊が出てくるミステリーはあまり読んだことがないな」と思って調べたところ、国内・国外を問わず、救急隊員を主人公にしたミステリーは非常に少ないことがわかりました。これはよい題材かもしれないと考え、資料収集を始めました。

書くにあたって、いろいろ取材をされたと思います。ずばり、「救急隊」は、麻見さんにとってどんな存在でしょうか。

救急隊は「命の箱船」の乗組員である、と私は思っています。作中にも描きましたが、救急要請を受けたあと、救急隊員たちは搬送先の選定にかなり苦労しています。特に深夜などは病院が決まるまで、何十分も路上に停車していることがあるそうです。人の命を乗せて、一刻も早く目的地へ運ばなければならない。しかし行き先が決まるまでは動けないという、もどかしさ。そういう状況から、波に翻弄される箱船を連想しました。

取材前と取材後で何か印象が変わったことはありましたか。

取材のあと、プロ意識というものについて考えさせられました。何か事件が起こって怪我人などが出た場合、人はまず119番に通報することが多いと思います。そうすると、救急隊は警察より先に現場に着くことになります。いち早く事件現場に駆けつけて傷病者の処置をするわけですから、その苦労は並大抵ではないでしょう。今では救急車が通るたび、無事に搬送作業が終わるようにと祈るような気持ちで見送っています。

救急救命士になりたい、と思っている人はまず何から始めればいいのでしょうか。簡単に教えてください。

いくつか方法はありますが、例えば、まず地方公務員になるための勉強をしなくてはなりません。消防官として採用されたあと、消防隊で経験を積みながら救急技術員の資格をとり、晴れて救急隊に配属となります。ご質問にある救急救命士は国家資格で、いくつかの条件を満たした人でなければ受験できません。名実ともにプロの救急隊員だけが、救急救命士になれるというわけです。

「トリアージタッグ」という、一般的にそれほど知られていないものを素材として使われています。どうしてトリアージタッグを使おうと思われたのですか?

トリアージというのは傷病者の選別作業のことです。選別される傷病者は、緑、黄、赤、黒、いずれかのトリアージタッグを与えられます。私は執筆前にタッグの実物を入手したのですが、そのカラフルな印象とは裏腹に、これが傷病者の運命を決めるのだということを、重く受け止めました。しばらく考えた末、トリアージタッグで人間ドラマが作れることに気づいて、ストーリーを練っていきました。

人間がほかの人間の命にかかわる判断をする、という大変重いものだと思います。そこに麻見さんが込めた思いなど、ぜひお聞かせください。

トリアージについて考えるうち、命の選別について誰が責任を持てるのだろう、という疑問が湧きました。たとえ医療関係者であっても、切迫した事件・事故の現場ではやはり動揺するのではないでしょうか。責任を問われないかと、躊躇する人もいると思います。それでも、現場では誰かがトリアージをしなくてはなりません。勇気を持って行動できる人を尊敬したい、という気持ちからこの作品を執筆しました。

今回、主人公・真田の正義感、熱さに心を打たれました。真田というキャラクター誕生には、何かきっかけはあるのでしょうか。

〈警視庁捜査一課十一係〉シリーズには鷹野という飄々とした刑事が出てきますが、今回は救命活動をしっかり描きたかったので、主人公は熱意を持った、責任感の強い人物にしたいと思いました。真田の正義感は、サスペンスフルなこの物語によく合っていると感じます。彼の心の中にある、プロとしての誇りを感じとっていただけたら幸いです。

この作品の読みどころを教えてください。

ずばり、救急隊の活躍です。込み入った説明はできるだけ省くようにして、物語のスピード感を大事にしました。不可解な事件現場、緊迫感のある救命シーン、そして最後の謎解き。疾走感あふれる救命活動とともに、ミステリーの醍醐味も味わっていただけると思います。

もっと彼らの活躍を見たい! ……と思っていますが、次回作の構想などはあるのでしょうか?

救急隊長の真田、隊員の工藤、機関員の木佐貫という救命チームはバランスもよく、とても動かしやすいキャラクターでした。殺人事件のあとにスタートする警察小説とは違い、「人の命を救う」という物語ですから、新鮮な気持ちで書くことができました。救急医療を扱う作品では、命を守るという使命感と、切迫した現場で衝突する人間の感情を、あわせて描くことができます。チャンスがあれば、ぜひ続編を執筆させていただきたいと思っています。

最後に、読者の方々に、一言お願いします。

警察小説に謎解きを取り入れてスタートしたのが〈警視庁捜査一課十一係〉シリーズでした。一連の作品を書かせていただいたことは、私にとって貴重な財産となっています。『深紅の断片 警防課救命チーム』ではその経験を活かしながら、枠組みを救急医療小説に替え、より緊迫感のあるストーリーを描きました。人々の命を守る救急隊の活躍を、ぜひ見届けていただきたいと思います。

撮影=講談社写真部・大坪尚人

PROFILE

麻見和史(あさみ・かずし)
1965年、千葉県生まれ。立教大学文学部卒業。2006年に『ヴェサリウスの柩』で第16回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。新人女性刑事・如月塔子が、個性豊かな捜査一課の仲間と共に難事件に挑む、『石の繭 警視庁捜査一課十一係』が、警察小説の新機軸に挑んだ作品として人気を集め、シリーズ化。『蟻の階段』『水晶の鼓動』『虚空の糸』『聖者の凶数』『女神の骨格』を発表している。他の著書に、『屑の刃 重犯罪取材班・早乙女綾香』『特捜7 (セブン)銃弾』『警視庁文書捜査官』などがある。今後さらなる活躍が期待される、ミステリー界の気鋭。

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「真田隊」構成員File これが「真田隊」!

真田健志(さなだ・たけし)
舞川中央消防署警防課救急第二係・救急隊長。33歳。消防司令補。本来ならまだ隊長になる立場ではないのだが、前隊長が長期療養を余儀なくされたため、代わりに隊長に就任。極めて真面目な性格で、日課は時報を聞いて時計を合わせること。好きなものはコーヒー(味にはあまり拘らない)。

木佐貫通雄(きさぬき・みちお)
42歳。「真田隊」で救急車の運転を担当する「機関員」。隊唯一の既婚者で、娘をかわいがっている。穏やかな性格で、人の話を聞くのがうまいムードメーカー的な存在。車の運転にはプライドがあり、いい加減な運転をするドライバーに対しては怒りを隠せないことも。

工藤優一(くどう・ゆういち)
「真田隊」隊員。明るい性格の24歳。隊で最年少のため、食事の準備などの雑用は工藤の役目。飲み込みが早く優秀なのだが、お調子者でせっかちなところがある。田舎の祖父も救急隊員だった。

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トリアージタッグとは

トリアージの意味
トリアージ(triage)とは、災害発生時などに医療機能が制約される中で、一人でも多くの傷病者に対して最善の治療を行うため、その緊急度や重症度によって、治療や搬送の優先順位を決めること。
救急の原則と言われている3つのT、選別(Triage:トリアージ)、治療(Treatment:トリートメント)、搬送(Transport:トランスポート)の3Tのひとつ。トリアージ(Triage)は、フランス語で「選別」を意味する「trier」が語源で、良い物だけを選り抜く、選別するという意味。

トリアージタッグとは
トリアージタッグとは、トリアージの際に用いる識別票(写真)のこと。災害現場で救助された負傷者は、トリアージ実施責任者によりトリアージ区分され、その区分に基づき医療機関に運ばれ必要な処置、治療を受けることになる。タッグに記載された内容は、適切な治療を受けるための重要な情報であり、被災地内の医療機関においては簡易カルテとして利用することも可能。又、受け入れ患者の総数や傷病程度別患者数をより的確に把握することが可能。
用い方は、負傷者の右手首にタッグのゴム輪を二重に巻きつける。不可能な時は左手首→右足首→左足首→首の順でつける。タッグ用紙は3枚つづりで、1枚は災害現場用、2枚目は搬送機関用、3枚目本体は収容医療機関用。

優先度 識別色 分類 傷病等の状態
第一順位  赤 色 最優先治療群 生命を救うために、ただちに処置を必要とする人。速やかに(5~60分以内)に救急医療機関で治療を開始すれば救命可能な人。
(重 症 群) 
第二順位  黄 色  待機的治療群 多少治療の時間が遅れても生命に影響はないが、放置しておくと生命の危険がある人。
(中等症群) 
第三順位  緑 色  軽処置群 歩行可能で、専門医の治療を必要としない人。トリアージタッグは未使用(手に取り付けるだけ)。
(軽 症 群) 
第四順位  黒 色 不搬送、不処置群 既に死亡している人、又は体幹や頭部に重大な損傷があり、既に生命反応がなくなりかかっている人。
(死 亡 群) 
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担当者コメント

これまでに数々の手に汗握る警察ミステリーを送り出してきた麻見和史さん。そんな麻見さんの最新作は、〝救急隊″が主人公の、疾走感あふれるサスペンス&ミステリーです。 私が特にお奨めしたい本作のポイントは、刑事たちとは違って、人の命を救うことを専門とする救急隊が、彼らならではの知恵と行動で凶悪な犯人に立ち向かっていく姿と、日夜、三人一組で活動する救急隊ならではの結束力です! ぜひお読みください。

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読者モニターコメント

綿密な取材に基づく丁寧なディテール描写と素晴らしい臨場感によって、救急隊はどのような組織で、どのような人たちが、どんな使命感をもって業務にあたっているのかが、とてもよく伝わってくる。 Sさん 40代男性

救急隊員たちの日常がとてもていねいに描かれ、読んでいると一緒に行動しているようだった。トリアージという、人の生死を左右しかねない重要な業務がキーになり、思わずページをめくらずにいられなくなるミステリーが展開していく。命の重さを知る隊員たちの熱い思いや責任感、チームワーク、病院の医師や刑事たちとの連携や軋轢といった、現場の人間ドラマも楽しめた。 Fさん 50代女性

名探偵でも名刑事でもない、救急救命士が命の大切さを感じる現場で、その命を救うために事件の真相に迫っていく。
救命というスピードの必要な仕事の中の新しいことを知ると同時に一気に読まされてしまった。 Hさん 70代男性

普段はあまりスポットを当てられることのない縁の下の世界で、日夜活躍する救急隊の使命感や苦労が、ストーリーの中で明らかにされてゆく点に関しては、とりわけミステリーとしての新機軸と言っていいかもしれない。 Oさん 50代男性

不要な救急車要請、患者のたらい回し、人が人の命の選別をするともいえるトリアージタッグ。そんな現実から目を背けず、自分のやるべきことをやる、そんな主人公、真田の姿勢は「当たり前のことを当たり前にやることをかっこいい」と思わせてくれた。 Hさん 40代女性

読後には「生命」に対する責任の所在についても考えさせられる。何よりも、ベタな推理をしても消去法でも犯人が分からない。後から、張られていた伏線に悔しさがにじむ。 Mさん 30代男性

終始、気の抜けない展開。緊急医療の問題点を浮き彫りにするなど社会派なテーマもしっかりと描かれていた。癖のある登場人物も数多く登場、展開の意外性や犯人当ての醍醐味など……ミステリーとしても申し分なかった。伏線の巧さも相変わらず……クライマックスの謎解きで、そこひっかかっていたんだよと、何度も悔しい思いをしました。大変、面白い、満足度の高い作品。 Aさん 30代男性

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既刊紹介
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